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大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)59号 判決

原告 山脇甚蔵 高見誠規

被告 近畿郵政局長 ほか一名

訴訟代理人 陶山博生 永松徳喜 ほか五名

主文

原告山脇甚蔵に対し、昭和四一年七月八日、被告近畿郵政局長(当時の名称は大阪郵政局長)がした三か月間俸給の月額一〇分の一を減給するむねの懲戒処分を取消す。被告国は、原告山脇甚蔵に対し、金五一、四二〇円およびこれに対する昭和四七年一一月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告高見誠規の請求を棄却する。

訴訟費用のうち原告山脇甚蔵と被告らとの間に生じた分は被告らの、原告高見誠規と被告近畿郵政局長との間に生じた分は同原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

第一昭和四二年(行ウ)第五九号事件について。

一  まず、本案前の抗弁について判断する。

〈証拠省略〉、その他本件記録添付の資料によると、次のとおり認められる。原告らは、昭和四一年九月一日、人事院に対し、本件処分について審査請求をしたが、審査請求書に不服の理由を記載せず、かつ処分説明書の写しを添付していなかつたため、人事院は請求を受理しなかつた。その後、人事院は、昭和四二年四月一七日、原告らに対し、請求の補正を命じ、これに対し、原告らが、同年九月一二日、審査請求の理由書とともに処分説明書の写しと称する書面を提出したところ、人事院は同年一〇月二三日右請求を受理した。ところで、原告らは、本件処分につき、被告局長から処分説明書を受領することを拒んでいるため、その原本を所持しておらず、したがつて、処分説明書の写しと称する右書面は真正な処分説明書原本の写しそのものではない。以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。

ところで、人事院規則一三-一(不利益処分の不服申立について)第一条第二項によると、職員が懲戒処分について人事院に対し審査請求をする場合には、審査請求書に処分説明書の写し一通を添付して提出しなければならない旨定められているところ、原告らは、当初の審査請求の際これを添付せず、補正を命じられた段階においても真正な写しを提出したものとはいえないから、原告らの審査請求にはこの点に不備があつたといわなければならない。しかし、同規則第六条によれば、審査請求の不備について審査請求者が人事院の補正命令にしたがわなかつた場合にも、人事院は審査請求を却下することを義務づけられておらず、裁量によつてこれを却下することができるとされているのみである。したがつて、原告らの審査請求について、人事院が、前記のとおり処分説明書原本の写しの添付がなかつたにもかかわらず、これを却下せずに受理したことは、当不当の間題は格別として、別に違法ではない。(もつとも、前記認定の経過からみると、人事院は、原告らが補正命令に応じて提出した前記の書面によつて本件処分の理由とこれに対する原告らの不服の理由を知りえたとして審査請求を受理したと解されるが、この措置に妥当を欠く点はないといつてよいであろう。)

ところで、原告らは、当初審査請求をした昭和四一年九月一日から三か月を経過しても裁決がなかつたとして昭和四二年五月一日に本件処分取消の訴を提起したものであつて、このことは記録により明らかである。しかし、このときは、人事院がまだ原告らの審査請求を受理していないときであつて、本件処分の適否の実体について判断をなすべき段階に達していないとみられる。このような場合には、行訴法第八条第二項第一号にいう三か月の期間は、処分の実体について判断すべき段階に達した審査請求受理の日から起算すべきものと解される。そうすると本件処分取消の訴提起の段階では右規定の要件を充たしていないことになるが、人事院が審査請求を受理した昭和四二年一〇月二三日から三か月を経過したことにより瑕疵は治癒され、結局本件処分取消の訴は適法ということになる。

ところで、本件処分取消の訴においては、右処分の瑕疵として被告局長の不当労働行為を理由とするものと、それ以外の事由を理由とするものとがそれぞれ主張されているが、このような場合において、被告局長のいうように、右不当労働行為に該当する瑕疵の存在につき行訴法一四条所定の出訴期間内に訴を提起してこれを主張しておかなければ該瑕疵の存在を理由とする部分の訴が不適法となるものとはたやすく考えられない。その根拠は次のとおりである。すなわち、およそ被処分者たる職員が不当労働行為に該当する瑕疵の存在を理由として直接人事院の審査を求めることは、公労法第四〇条第三項に照らしもとよりできないが、この場合は他の瑕疵事由の存在を主張して処分の効力を争う場合と異なり国公法第九二条の二等所定の審査前置の手続の適用をみないから、該職員は前記出訴期間内であれば、右審査前置の手続をふむことなく、右不当労働行為に該当する瑕疵の存在を主張して直ちに処分取消の訴を提起することができるものといわなければならない。しかしながら、本件のように、原告らが不当労働行為に該当する瑕疵の存在だけではなく、それ以外の瑕疵事由もともに主張して処分取消の訴を提起している場合においては、これらの瑕疵事由はいずれも右処分取消請求を理由あらしめるためのいわゆる攻撃方法たる事実にすぎないものと解すべきであるから、右瑕疵事由のいずれを主張するかによつていわゆる訴訟物を異にするわけのものではない。換言すれば、被処分者たる職員としては、不当労働行為以外の処分の瑕疵事由の存在を理由として、人事院に対する審査請求を経て適法に提起した処分取消の訴において、該取消請求を理由あらしめる事実として不当労働行為に該当する瑕疵の存在をあらたに主張することはなんら妨げないものというべきである。しかも前記出訴期間の制限は、ほんらい処分取消等の訴の提起に関する時間的な制約を意味するものであり、右期間がすぎれば、かかる取消請求を理由あらしめる事実に関する主張が一切できなくなることまでも意味するものではないと解されるから、被告局長のいうように、原告らが本件処分のなされたことを知つた昭和四一年七月八日から三か月を経過した後である昭和四二年五月一日に右処分取消の訴を提起したからといつて、右訴において不当労働行為の瑕疵の存在を主張することが許されないわけのものではない。そうすると、右主張に関する部分の訴を右出訴期間の制限を理由に不適法として却下すべきいわれはなんらないものというべきである。

以上のとおりであつて、本件処分取消の訴はいずれにせよ適法に提起されているといえるから、これを不適法とする本案前の抗弁は理由がない。

二  次に、本案について判断する。

(一)  請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件処分理由にいう事実の有無について考察する。

〈証拠省略〉を総合すると、次のとおり認められる。

全逓は、昭和四〇年八月の全国大会において、昭和四一年の春闘の一環としてストライキをもおこなうことを内容とする運動方針を決定したが、その後、昭和四一年二月の中央執行委員会、同年三月の全国戦術委員会において、賃上げその他の要求を実現するため同年四月下旬にストをおこなうことを決定し、同年四月二〇日、中央本部の指令第二二号をもつて、下部組織に対し、同月二六日と三〇日にそれぞれ半日ストの態勢を確立するよう指令し、次いで同月二三日、スト拠点局を指定し、拠点局において同月二六日午前零時から半日ストを実施し、スト実施局においては同指令到達後スト終了まで支部執行権を停止し、組合員はその間上部機関から派遣されたオルグの指示にしたがつて行動しなければならないむねの指令を発した。姫路局もスト拠点局として指定され、中央執行委員会から近畿地方本部委員長富松一男と兵庫地区本部執行委員和田保彦がオルグとして派遣された。これに対し、姫路郵便局長大橋信雄は同月二一日「職員の皆さんへ」と題する書面をもつて、ストに参加しないよう申し入れるとともに、同月二五日全逓姫路支部長横路喬宛の書面をもつて、ストを即刻中止すべき旨の警告を発し、右はいずれも職務命令としてなされたのであるが、姫路局においては結局右指令どおり同月二六日午前零時から本件ストが実施された。

当時姫路局には、全逓組合員約二八〇名がいたが、前夜からの夜勤者などは右スト参加の対象からはずされ、当日朝から午前一二時までに出勤すべき約一七六名が右ストに参加すべき者とされ、そのうち一七二名が現実にこれに参加した。原告山脇は当日午前六時三〇分から、同高見は同じく午前八時三〇分からの勤務となつていたが、いずれも右ストに参加した。右スト実施中、局外の建物において決起集会がおこなわれるなどしたが、その後、同日午前九時すぎに指令第二四号をもつてスト中止指令が出され、原告山脇は午前九時五七分から、同高見は午前九時五五分からそれぞれ就業した。したがつてその間、原告山脇は三時間二七分、同高見は一時間二五分の各欠務をしたことになる。(なお、右ストに参加した集配課の他の職員は約二時間半ないし三時間程度の、また貯金課の他の職員は原告高見と同一時間の各欠務をした。)

しかるところ、右ストにより姫路局では、午前七時出発予定の速達一号便約一、五〇〇通の処理ができず、おくれて二号便で処理し、また当日午前中に配達すべき午前九時出発の通常郵便物一号便が午前中に配達できず、おくれて午後一時三〇分に出発し、そのため同日午後に配達されるべき約一六、〇〇〇ないし一七、〇〇〇通が同日滞留し、翌日の配達となり、小包約六〇ないし七〇個も翌日廻しとなるなどの影響が出た。

右スト参加者は欠務時間がごく短かい者をのぞき全員処分されたが、大部分は戒告および訓告にとどまり、原告らをふくむ六名のみが減給処分に付された。原告らに対する処分が重くなつた理由は、分会長として多種組合員を指導してストを実施させたという点にある。

ところで、全逓には、組合規約上の組織として中央本部、郵政局所在地に地方本部、府県ごとに地区本部、特定の局所または一定地域ごとに支部がおかれている(この点は当事者間に争いがない。)そして、兵庫地区本部においては支部のもとに分会がおかれているが、これは組合規約上の組織ではない。したがつて、分会長もまた、規約上の役員ではなく、執行機関としての役割を有せず、支部執行部と一般組合員との間のいわば連絡機関の性格をもつにすぎない。そのため、分会長は組会員に対する独自の指導権を持たず、また、管理者や第三者に対し、組合あるいは組合員を代表する権限も有しない。ただ、分会長は、分会における会議を主宰するなどして職場における諸要求をとりまとめ、支部に連絡するとともに、もつぱら職場単位で解決しうる問題については支部の指導のもとに職場委員とともに管理者と折衝することができるものとされているため、事実上、組合員を指導し、組合員の意識行動に影響をおよぼしうる地位にあることは否めない。

ところが、原告山脇については、本件スト実施前の具体的な行動としては、三月二二日か二三日ごろ、姫路局において組合から各課長に対し公開質問状を提出したが、そのさい分会長としてこれに署名押印し、職場委員数名とともにこれを同原告の属する集配課の課長前田清治のもとに持参したことと、四月一五日に職場集会が開かれた際組合員に対しこれに出席するようすすめた程度のことがあるのみである。のみならず、右スト当日も、集配課分会においては、同課から選出されていた支部執行委員大塚輝義らが、組合員との連絡、あるいは参加者の確認にあたるなど積極的に右ストに関与する行動をしたのに対し、原告山脇は他の一般組合員と同様に右ストに加わり、局外での決起大会に参加しただけで、これ以外には別段目立つた行動はなにもしていない。

一方、原告高見については、三月二二日か二三日ごろ、地の職場委員らとともに同原告の属する貯金課の課長弓岡正作に対し分会長として署名押印した公開質問状を提出したほか、次のような行動をした。すなわち、まず、同原告は、四月二三日、弓岡課長と本岡課長代理が貯金課職員に対しスト参加の有無を確認していた際、同課長らに対しそのようなことは不当労働行為であると抗議した。また、同月二五日ごろ、同課外務職員の坂手某が右スト当日に有給休暇をとることを申請し、弓岡課長も了承していたところ、支部執行委横路喬が坂手に対して休暇を撤回してストに参加するよう説得したが、原告高見も同席して説得に加わり、坂手を納得させたうえ、横路とともに弓岡課長に対し休暇の承認を撤回するよう申し出た。また、同日ごろ、原告高見は、相生郵便局職員に対し、電話で右ストについて連絡した。ところで、貯金課分会選出の支部執行委員は林寛であるが、原告高見は同分会内勤者の職場委員をも兼ね、職場委員として昭和四一年一月ごろ右ストの可否についてアンケートをとり、また、管理者と職場交渉をするなど積極的な活動をした。もつとも、右スト当日の行動については、同原告が右ストに加わり決起大会に参加したこと以外には別に確認されていない。

以上のとおり認められ、〈証拠省略〉中、右認定と抵触する部分は採用しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、原告らに対する本件処分の理由は、やや明確を欠くが、原告らが本件ストに参加したことと、他の組合員を指導して右スト参加の働きかけをおこなつたことの二つをふくむものと解されるところ、原告らの右スト参加の点は右認定の事実により明らかである。一方他の組合員に対する働きかけという点については原告山脇は、前記分会長であつたが、これだけでは、前記のとおり他の組合員を事実上指導し、これに影響をおよぼしうる地位にあつたというにすぎないから、とうてい右働きかけの事実を認定する根拠とはなしがたい。また、同原告が公開質問状に署名し、前記集配課長のもとにこれを持参したことは前認定のとおりであるけれども、その質問の具体的な内容が判然としないばかりでなく、右は直接には管理者に対して向けられた行為であつて組合員に対する行為ではないことからいつて、他の組合員を右ストに参加させる行為の微憑としてとらえることはできない。さらに、同原告は前記のとおり他の組合員を職場集会に出席するようすすめたことがあるけれども、前認定から明らかなように、右は、姫路局がスト拠点局に指定される以前のことであり、いわば通常の組合活動にすぎないとみれるから、このことから同原告につき、組合員に対する右スト参加の働きかけを推認することも困難である。その他、右スト当日前認定のとおり支部執行委員らの方がむしろ積極的役割を果たしていた点などを合せ考えると、原告山脇については、スト参加ということ以外には、処分の理由となる事実は見出せない。

しかし、原告高見については、前記公開質問状の提出の件は格別として、同原告は、四月二六日実施の本件ストに関連して前認定のような諸種の具体的行動に出ているのであつて、これらの行動に照らし、単に右ストに参加したというだけでなく、前記指導性ないし影響力を有する分会長(ないし職場委員)の地位にあつて、他の組合員に対するスト参加の働きかけを積極的におこなつたものと認めるのが相当である。したがつて原告高見については、前記処分理由にいうとおりの事実を認めることができる。

そして本件ストが姫路局における郵便処理の正常な業務の運営に相当程度の停滞をもたらしたことは前認定のとおりであるから、同ストは公労法第一七条第一項に禁止された同盟罷業に該当し、したがつて、原告らの行為は、(原告山脇については処分理由にいうほどのものではないにしても、)いずれも同規定に違反してなされた争議行為にあたるというほかはない。

(二)  右にみたとおり、原告らには、公労法第一七条第一項に触れる行為があつたのであるが、原告らは、右規定は違憲である旨主張する。

しかし、公共企業体等の職員の提供する職務の公共性がいちぢるしく高く、ことに原告らの属する郵便事業においては、それが国に独占されていることもあつて、その業務の停廃が国民生活に重大な障害をおよぼすおそれがつねにあることを考えると、右業務に従事する職員に対してその争議行為を禁止し、その禁止に反した者に不利益を課することがやむをえない場合があるといえる。もとより、争議行為は、憲法に保障された労働基本権のひとつである団体行動権にもとづくものであるから、これを禁止するについては、右にみたように業務の停廃が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることから、これを避けるために必要かつやむをえない場合でなければならないし、違反者に対して科せられる不利益については必要な限度をこえないよう十分な配慮がなされなければならず、かつ争議行為の禁止に見合う代償措置が講ぜられなければならない。このうち、公共性の点については、郵便事業の場合いちぢるしく公共性が高く、かつ代替性もないため業務を停廃できない結果として争議行為を制限することも必要やむをえないことは、右にみたとおりである。また、違反者に対して科せられる不利益の点は、民事上の責任についていえば、公労法第三条が争議行為についての民事免責の規定である労働組合法第八条の適用を除外し、かつ、公労法第一八条が同法第一七条に違反して争議行為をした職員の解雇について規定しているのにとどまるのであり、いいかえれば、争議行為をした職員は民事上の責任を免れえないとされているだけのことであつて当然に制裁が予定されているわけではないから、法律上、違反者に対する民事責任についての配慮が欠けるともいえない。さらに、公労法は、代償措置として、原告ら郵便事業に属する職員についても、企業体との間の紛争について公共企業体等労働委員会によるあつせん、調停、仲裁の制度を定め、ことに公益委員による仲裁委員会のした仲裁裁定は労働協約と同一の効力を有し当事者双方を拘束するものとしている(原告らは政府がこれに拘束されないことを指摘するが、同法によれば、政府は紛争の当事者ではないけれども、最大限にこれを尊重しなければならないのであり、ただ、公共企業体等の予算または資金上不可能な資金の支出を内容とする裁定について例外的に拘束されないむねを規定しているにすぎないから、別段、右の仲裁裁定の効力を弱めるほどのものではない)。

もつとも、公労法第一七条第一項は、法形式上は、公共企業体等職員の争議行為を一切禁止しているようにみえる。争議行為の禁止が、前記のように公共性の要請にもとづくものとすれば、右規定が国民の利益に影響をおよぼさないような争議行為まで一律かつ全面的に禁止したものとしか解しえない場合には、右規定についてなお違憲の疑いを残さざるをえないであろう。しかし、この点は違法性の評価の問題につきるともいえる。争議行為の規模、態様、違反者の争議への関与の程度などからみて、違反者各個人に対する違法の評価はおのずから異なり、場合によつては、法秩序全体の立場において実質的に違法の評価を与えるほどのものではない場合も当然あることが予想される。そして、この点さえ留保しておけば、右規定をもつて公共企業体等の職員に対し、民事責任をともなう争議行為を禁止することは、かくべつ憲法第二八条に違反するものではないというべきである。

そうすると、この点についての原告らの主張は採用しがたい。

(三)  次に原告らは、公労法第一七条第一項違反の行為については、同法第一八条の解雇が予定されているだけであり、国公法にもとずく懲戒処分に付することはできないと主張する。

およそ公労法第一七条は、前述したところから明らかなように国民生活全体の利益保護を目的として設けられているものであり、一方国公法上の懲戒処分に関する諸規定は、原告らの場合についていえば、郵便事業運営上の規律保持を達成するために設けられたものといえる。しかし、公共企業体等がその目的を達成するためには、業務の適正かつ円滑な運営が必要不可欠なものと解せられ、それが直接国民全体の利益保護につながることを合せ考えると、右公労法の規定は、右のような企業運営上の利益の保護をも目的としているものといえる。したがつて、原告ら現業の国家公務員が公労法の右規定に違反する行為をすれば、その効果として企業運営上の規律を保つために定められた国公法第九八条第一項、第九九条、第一〇一条等の規定に違反することとなる場合があり、そのときは、同法第八二条の懲戒責任を免れえないものと解される。しかるところ、原告らは、前認定のとおりいずれも上司の職務命令に従わず、違法な本件ストに参加し、その間勤務に就かなかつたのであるが、これは、国公法第九八条第一項、第一〇一条に違反する行為であり、懲戒責任を免れることはできないといえる。

したがつて、右に反する原告らの前記主張は採用しがたい。

(四)  さらに、原告らは、本件処分は、原告らが組合幹部すなわち分会長という組合役職についていたことを理由とする差別的取扱いであり、不当労働行為であると主張する。なるほど、前記のとおり、被告局長は、原告らについて一般組合員に対して料した戒告より重い減給処分を選択したのであるが原告らの全立証によるも、原告らが単に分会長であつたということのみを決定的動機として重い右処分を選択したとまでは認められない。かえつて前記認定の事実によれば、被告局長は、自己の認定した原告らの右ストに対する関与の程度、態様等を考慮して本件処分を選択したものといえるから、これを目して右組合幹部であることを理由とする差別的取扱いであると速断することはできない。

したがつて、原告らのこの点についての主張も失当である。

(五)  原告らは本件処分は懲戒権の濫用であると主張する。

被告局長が国公法第八二条所定の懲戒処分のうちいずれを選択するかは、被告局長の裁量にまかされるが、その裁量は、被処分者の行為の態様、程度、その他の情状を考慮した合理性のある妥当なものでなければならない。

ところが、原告山脇について認定できる行為は、前記のとおり、一般組合員の場合とほとんどかわらず単に本件ストに参加したというにとどまるのであるが、前記各証拠とくに〈証拠省略〉により認められる、一般のスト参加者はもとより原告山脇よりも積極的に右ストに関与したとみられる集配課その他の各分会選出の支部執行委員らも訓告もしくはたかだか戒告処分にしか付せられていないことからすると、被告局長の原告山脇に対する本件処分は、他の組合員に対する処分に比し均衡を失しているといわざるをえない。もつとも、〈証拠省略〉によると、郵政省と全逓との間の取り決めにより、四か月未満の減給と戒告とでは、処分後の昇給延伸等の不利益につき差は生じないものとされていることが認められるが、このことを考慮しても、減給の場合は現実に俸給が減ぜられるわけであるから、この点だけからみても戒告との間には相当の懸隔のある重い処分であることは否めない。したがつて、その間の選択には、合理的な妥当性が保たれなければならないものというべきところ、原告山脇に対する本件処分は右のように均衡を失しているから、被告局長にはその選択について裁量の範囲を逸脱した違法があるものというほかはない。

次に、原告高見については、前記のとおり、他の組合員に対するスト参加の働きかけがあつたと認められ、単なるスト参加という以上に積極的なスト関与があつたといえるから、被告局長が同原告につき減給処分を選択したことは、裁量権の範囲を逸脱したとまではいいがたい。他に同原告について、懲戒権濫用の事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告らの前記懲戒権濫用の主張は、原告山脇については理由があるが、原告高見については失当であつて採用できない。

三  以上のとおりであつて、被告局長の原告山脇に対する本件処分は懲戒権を濫用してなされた違法があり、これを取り消すべきものであるから、その取消を求める同原告の請求は理由があるが、原告高見に対する本件処分は別段違法の点がないから、その取消を求める同原告の請求は失当というべきである。

第二昭和四七年(ワ)第四、〇一八号事件について。

請求原因(一)、(二)、(三)の事実は当事者間に争いがない。

昭和四二年(行ウ)第五九号事件につき判断したとおり、原告山脇に対する本件処分は違法であり、取消を免れないから被告国は、原告山脇に対し、右処分による俸給減給分金一六、七七〇円および退職手当金差額金三四、三五〇円の合計金五一、四二〇円を支給すべき義務があるものというべきである。そうすると、被告国に対し右金五一、四二〇円およびこれに対する記録により訴状送達の翌日であることの明らかな昭和四七年一一月三〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める同原告の請求は全部理由がある。

第三むすび

以上のとおりであるから、原告山脇の被告局長に対する本件処分取消請求および被告国に対する俸給等支払請求はこれを認容し、原告高見の被告局長に対する本件処分取消請求はこれを棄却することとする。

よつて、訴訟費用につき行訴法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、被告国に金員支払を命ずる部分の仮執行宣者円については、これを付すことが相当でないと認められるので、その宣言をしないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 日高敏夫 岨野悌介 窪田正彦)

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